八味姉妹の部屋

文芸ユニット。只今、エッセイの勉強中です。

「雨」蒼月 光 著

自分は晴れ女だと思っていた。
学生時代の遠足や学校祭、家族旅行等の想い出は大抵晴れの日と共にあるから。

それは傘やカッパを着た写真が見当たらないことからも明らかだ。

けれどいつからだろう。

非日常を強調するような猛烈な雨と共に思い出が作られるようになってきたのは。

 

最初は高校時代の友人達(御理伊武含む)と富良野に行った時のこと。

たしか札幌駅からの観光列車に乗って、北の国からのBGM流れる車内ではしゃぎながら、畑の真ん前に期間限定で作られる駅に向かった時のことだ。

見渡す斜面一面に広がるラベンター畑。リラックス効果のある薫りを堪能しながら、青空にふわゆら浮かぶメロンの形をしたバルーンを観たのを確かに覚えている。

 

それがいつからかどんどん雲が多くなってきて。お気楽にものんびりと他の観光先へと徒歩移動をしている時に、突然やってきた天を裂くような稲光と轟音

 

悲鳴を上げる間もなく、土砂降りの雨に降られ、ようやく見つけた民家に飛び込み、タクシーを呼んでもらった鮮烈な記憶。今、千原Jrさんが不定期でやっているタクシーでの旅番組をかなり昔に先取りでやっていたことになる。

 

あの時の田舎特有の引き戸玄関の民家の方が、優しくて有難く。素早くタクシーを呼んでくれたり、これ以上濡れないようにと玄関先まで入れてくれたり…。突然やってきたビショビショ女子6人がピンポンと同時にタクシーを呼んでくださいって助けるって、事件でも起きたかと驚かれたろうに。

さり気なく去り際に、御理伊武が「お礼代」を靴箱の上に置いていったのをみて、大人のスマートさを感じたことも覚えてる。

 

次は野外音楽フェスに行った時のこと。

1つ目は某学ランツッパリロックバンドが行った、山梨県富士急ハイランドでの特設ステージLIVEに行った時。

千歳から羽田まで飛行機で飛び、迷宮のような新宿駅で列車を乗り継ぎ、更に何処か名前も忘れた駅でも乗り換えた。都心から離れ、車窓が山間の風景を醸してきた頃、周りに人がいなかったのを良いことに、列車の中でライブTシャツに着替えたりもしながら。ようやく、富士五湖が見え、山梨県までたどり着いたものの、日程2日間通しての雨模様

 

そこにおわします富士山が裾野までスッポリ隠れている始末。高校の修学旅行以来にお会いできると思っていたのに残念だったが、カッパを着て、LIVEに臨むという生涯初の経験、そして、これからもきっとない経験だと胸が躍ったのも確かなことだった。

 

大好きでたまらなかったベースに合わせて全身を揺らせて。

 

あの場にいた数万人の観客と一緒にROCKの渦に飲み込まれ。
まだ暑い8月の終わりの盆地地帯でのこと、汗か雨か分からないもので全身を濡らして、2日目も終わった頃にはカッパも破れてた。

でも一緒に行った友達の、何かから解放されたような晴天の笑顔は忘れられない。

 

2つ目は北海道石狩浜で毎年行われるライジングサン・ロックフェス(RSR)でのこと。このRSRは、丁度天気が崩れる時期に行われるので有名だ。

2年連続で行った時、どちらかの年は、ずっと晴れで。夕焼けをバックにミスチルを、朝焼けをバッグにスカパラの奏でる音楽を聴いていたが、どちらかの年は見事に雨に降られた。

その年は降水量も少量だったからテントで凌いだりして無事だったが、今年(2019)はついに1日目が中止の憂き目にあってしまった。

 

いかんせん、だだっ広い空地に大きなステージやテントステージや屋台やイベント小屋を2日間の為に設営している野外イベントなだけに、台風崩れのような嵐がきたら避難する場所もなく、傷病人が出た場合の医療施設も近くにはなく。「何かが起きてしまってからでは遅い」という危機管理が、中止という結果になったのだろう。

 

そんな状況でも、テントを張って一夜を過ごした人たちがいると報道で聞いた。

結局、あの中止になってしまった日の夜は、警報が出ると言われていたのに、嵐なんて何処へやら。思いの外、静かな夜だったと記憶している。

1年楽しみに待っていたことが中止になった、ただ暗く予想だにしなかったはずの、なんとも静かな夜をテントで過ごした人たちは、どんな想い出ができたのだろう。

酔いしれるはずだった音を思い浮かべては、星もみえない闇夜に溶かして。ただひたすらに恋焦がれたひと夜を同志達と共に過ごしたのだろうか。

辺りが水たまりだらけだとしても、履いたスニーカーやジーンズが張り付く不快感を感じた時間で有ったとしても、ある意味での貴重な体験をした人たちを少し羨ましく想う。

 

雨は自分の世界に閉じ込める幕だ。

聞こえなくてもいい耳鳴りも、雨粒が地を弾く音が掻き消してくれる。

だから、雨の日は集中して、好きなことをしていいと世界が許してくれた日だと、私は個人的に信じている。

音楽や映画等のアートな世界に飛び込んで、どっぷりとトリップして、思うままの時間を手に入れられるのを許された時間。

逆に何もしなくても許される日でもあると、雨の音を聴きながらベッドに沈むのも良い。

自分の輪郭を縁取る雨を感じながら、夢に落ちるのも、また一興。

 

 

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