八味姉妹の部屋

文芸ユニット。只今、エッセイの勉強中です。

エッセイ

「本」蒼月 光 著

私はベッドサイドにお気に入りの詩集を置いている。 眠れない夜と目覚めの悪い朝のお供に。 もう何度も何度も読み返して紙も変色した文庫本ばかりだから、うっすら言葉も覚えてさえいるのに、読む時の心境で意味が変わるから不思議なものだ。 例えば、同じ詩…

「本」御理伊武 著

履歴書の欄に趣味は読書と書く。 2000年のミレニアムのお祭りの後の就職氷河期に、特技や趣味は必要ない。 新卒採用の面接で、若い人は素直で使い勝手があり、新規顧客の開拓に親族友人を紹介してくれたのならば、その時だけほめて後はお役ご免。また契約を…

「絵」高柳 龍 著

◇ 絵 ◇ 「 秘密基地にありしもの 」 “なあに水面まで高が50㎝もない滝壺だったのか。これを滝壺と呼んでいいのか、別称が浮かばないのが面映ゆかったが、無性に懐かしかった。あれから10年以上も経って姿を留めているとは” もう40年以上も前、つまり大…

「絵」蒼月 光 著

平日の昼間。 霧雨の注ぐ音が聞こえそうなほど静まり返った美術館で、絵画を観ていた。 森林展とされただけあって、木や林や森が額縁一杯に描かれた絵ばかりが展示された館内。コンクリートの壁、徹底した温度湿度の調整。人工物で囲まれた部屋にいるはずな…

「絵」御理伊武 著

小学校の体育館にカーテンのように飾られる絵画コンクール入賞者と学年毎に優秀として大勢の中から選抜された絵は、飾られる子供にとっては勲章なのだと思った。私も絵が得意な友達の名前を見つけては、すごいねと賞賛した。 そんな私の絵も飾られたことがあ…

「雨」高柳 龍 著

「雨に濡れるこころ」 小降りの雨が陽射しに映える。さすがに濡れるだろうからと愛用の大傘を先程から差している。 昨夜はゼミの仲間と浴びるほど飲んだ。元々酒精に弱く途中で正気は吹っ飛んだ。依然、酔いが頭に渦巻いている。日曜日だが偶には独りのんび…

「雨」蒼月 光 著

自分は晴れ女だと思っていた。 学生時代の遠足や学校祭、家族旅行等の想い出は大抵晴れの日と共にあるから。 それは傘やカッパを着た写真が見当たらないことからも明らかだ。 けれどいつからだろう。 非日常を強調するような猛烈な雨と共に思い出が作られる…

「雨」御理伊武 著

突然の夕立。 桑園イオンを出た私は呆気に取られる暇もなく駐輪場の自転車へと向かう。軒下から3秒歩いて出てみれば、すぐに、ずぶ濡れになってしまう雨の勢い。しかし、ここまで自転車に乗って来たからには自転車で帰るしかない。 ショッピングセンターを…

「映画」高柳 龍 著

「映画古譚」 1961年、滝川の小学校に入学した。テレビが映像の主役ではなかった時代、年に数度、母に連れて行ってもらう映画館は「娯楽の殿堂」だった。 照明が落ちるやブザーが鳴り響く。身構えるのと同時に心拍が始まる。両側の「非常口」の赤灯と大スク…

「映画」御理伊武 著

人生初の映画はドラえもんだ。 「のび太の魔界大冒険」かつて札幌市中央区2条西5丁目にあった、東映に家族でドラえもんを見に向かった。日曜日で満員御礼、立ち見大歓迎。ラッシュ時のような人の混雑の中、通路にも人がいっぱいで、ぎゅうぎゅう詰め。 私…

「映画」蒼月 光 著

学生時代、履修科目でフランス語を学ぼうと選択した。 義務教育から散々教え込まれてもしっくりこない英語への反発か、見知らぬ言語への単なる興味だったか、今となっては選択した理由はトンと忘れてしまったが。 担当教授は肩までの長さの真っ黒い髪をソバ…

「夏服」高柳 龍 著

歓喜雀躍の半ズボン 服のことなど母親に任せておけばよい、細かいことに拘らぬが男なのだと思っていた世代は、昭和30年代前半生まれくらいまでであったか。とは言え、自分の好まぬ物を着せられては溜まったものじゃなく、断固、拒絶することもあった。だが…

「夏服」蒼月 光 著

庭の雪がようやく見えなくなって、ほんのりと太陽の光が温かみを感じるようになってきた頃。雀の御一行が、鳥小屋近くのまだ小枝も伸びていないような桜の木に舞い降りてくる。鳥小屋といっても簡素で壁がないそれは、寒さを凌ぐには不十分なのだろうに。厚…

「夏服」御理伊武 著

何度か目覚まし時計のけたたましい音を夢の中か起きる気力のない現実かで、やり過ごした私は、最後のアラームを止める。十分間に合う時間に最終アラームは設定されているが、それでも急がなくてはいけない。 昨日洗って干したままの白い制服はまだ湿っている…

「料理」高柳 龍 著

ひねくれ者のバラード 初夏の散策に鳥の声を楽しむ。鶯、郭公、鶫、等々、姿見せずに空間に響き渡らせる声色に釘付けになる(種々の声が混じるが不案内の為、美声の主をこれ以上挙げられぬ。残念)。 ある日ふと思った。彼等の美声は快楽の為に歌う人間のそ…

「料理」蒼月光 著

おふくろの味というのがある。 幼い頃から食べ慣れた、自分の家でしか食べられない味。 我が家の場合は、主に御赤飯と小鯵の唐揚げの南蛮漬けだろうか。 私は生まれも育ちも道産子だけれど母は関東出身。 関東にいた時間より北海道で暮らす時間の方がはるか…

「料理」御理伊武 著

居酒屋の席に落ち着き、ビールや飲み物を頼んで、飲み物がくるまでメニューを広げて眺める。唐揚げに、枝豆、後は鳥串と…。卵焼きの文字が目に入る。どのお店でも500円程度でボリュームのある卵焼きを私は必ずと言って良いほど注文する。 卵焼きが大好き…

「水遊び」高柳 龍 著

水遊び今昔 中島公園「鴨々川」、大通公園の噴水(2基あったうちの一つ、今もあるか?)、「さとらんど」の人工巨大水辺(名称知らず)等々、札幌界隈在住のご家庭では子どもが小さい頃何度も訪れた場所ではないだろうか。少し長ずれば手稲の巨大プール施設…

「水遊び」御理伊武 著

私が4、5歳の頃にビニールプールで遊んでいる写真がある。 平屋の公務員官舎の庭の片隅。車がなかった我が家は、雑草の生えた石と土の混じる駐車場をそのまま子供の遊び場にしていた。自家用車のある他の家は、青いブルーシートを張った車庫を作ったりして…

「水遊び」蒼月光 著

最近、時間と体力が有る時は、父が当番役になっている町内会の花壇の水遣りを手伝うことがある。 準備として近所の公園の水飲み場まで水を汲みに行くのだが、その公園には子供たちが十分遊べるくらいの規模の水場が造設されている。 水深は子供が座り込んで…

「じょっぴんかる」高柳 龍 著

◇じょっぴんかる◇ 「己を出すことから」 高柳 龍 昔から犬派であったのは、私が普通以上に男女の違いを意識する子どもであったことも理由にあったろう。男は犬好きで女は猫を可愛がる。厳寒の雪中でも堪える意識も無く犬とじゃれ合う男の子、片や耐寒力弱く…

「じょっぴんかる」 蒼月光 著

父方の実家は函館近くの見る角度によって形を変える駒ヶ岳が、ほんの少し遠くに見える程度に在る。 つまりは所謂「ハマ言葉」にかなり寄った言葉遣いをする。 伯父叔母の言葉はたまに分からないくらいで、聴き飛ばしてしまったりしても会話は成立できる程度…

「じょっぴんかる」御理伊武 著

小学生の頃、友達に鍵のついた日記帳を見せてもらったことがある。 厚手の表紙の真ん中に小さな錠前があり、鍵をかけると開けなくなる構造だ。ファンシーショップで見かけたことはあったが、子供のお小遣いで買うのには高価だったので、眺めているだけだった…

「カメラ」蒼月 光 著

カメラのレンズを向けられることが苦手になったのはいつからだろう。 実家には無数のアルバムに赤ん坊から大きくなるまでの写真が収めてあるのに。それも全部一つに纏めたら、公園でシーソーが出来るくらいの重さになるんじゃないかと思う程である。 それほ…

「カメラ」御理伊武著

1990年代に学生時代を過ごした私たちのカメラといえば、使い捨てカメラが主流だった。カメラ自体が高級品だったので、千円程で24枚撮れるフィルムが内蔵されている使い捨てカメラは学生のお小遣いでも気軽に購入することが出来た。ピント合わせが不要でシャ…

「青」というテーマの元に「色感談義」 高柳 龍 著

八味姉妹の執筆活動の原点は、学生時代に立ち上げ直した「文芸同好会」です。その時の顧問である高柳 龍先生に、最近、再び懇意にして頂き、ご指導賜りたくエッセイを執筆して頂いておりました。(文学フリマに来て頂いて、本当に感謝と嬉しさでいっぱいでし…

「学祭」 蒼月光 著

幾数年ぶりに母校の学校祭に行った。 卒業してから数回はお世話になった先生方に挨拶したり、合唱部や文芸同好会の後輩の様子見を楽しみに行っていた。だが、ここ数年はとんと足が遠のいていた。日常の忙しさに振り替える余裕が無かったせいかもしれないし、…

「学祭」御理伊武 著

学祭ほど陽キャラと陰キャラの差が付く期間はないと思う。 陽キャラとは社交的で交友関係も広く、何事にも積極的で明るく楽しくいつも友達と過ごしているタイプだ。その反面、陰キャラは居ても居なくても分からず、気が付けば校舎の誰も来ないような忘れられ…

「サカナ」蒼月光 著

まだ開業して間もなくのスカイツリーに登って、地上から約450メートルの高さからの風景を観たことが有る。産まれも育ちも「試される大地」出身の正真正銘田舎者の私。「東京」には、渋谷や新宿等は勿論、浅草等の下町方面にも何度か観光したことがあるのにも…

「SAKANA」御理伊武 著

水槽からオイゲノールという麻酔薬の入ったバケツへ小さな網を使い、魚を移す。 手のひらほどの大きさの魚は新しい水色の円の中をくるくると自由に何周かした後、 ゆっくりとプクプクと息を吐きながら浮上する。 私は、魚が軽く眠った頃を見計らい、白いビニ…